2020年8月18日イベントレポート

【イベントレポート】観光産業は地域の持続可能性に寄与できるのか【Hello! New Normal 沖縄観光産業のニューノーマル。第3回】

Hello New Normal企画、沖縄観光産業のニューノーマル。シリーズ第3弾。今回は、観光産業と地域の持続可能性への貢献の可能性について、最前線で研究・実践を行うおふたりにお話を伺いました。

<ゲスト> 日本交通公社 観光地域研究部 地域計画室長 上席主任研究員 中島泰氏 ㈱美ら地球 CEO 山田拓氏

<モデレーター/案内役>ISCOフェロー/沖縄観光の未来を考える会事務局長 中村圭一郎氏

持続可能な観光の定義とは―日本交通公社 中島泰氏

持続可能な観光といっても、何をもってその地域が「持続可能」なのかを定義するのは、それ自体がかなり難しいことのように思います。
1つの指標になるのが、「キャリングキャパシティ」の考え方。「その観光地には、何人の観光客が入ってもいいのか?」を物理的収容力/施設収容力/生態的収容力/社会的収容力といった指標で規定するものです。

様々な観点から、「どこまで許容できるのか」を決めるのですが、それでも、客観的に1つの数値で出るものではありません。受け入れ側が合意形成をしながら設定し、試し、そして常に最適を探し、目指していくもの。 その考え方を発展させたのが、「持続可能性指標」です。これは、人数以外に気にすべき様々な項目を含みます。

オーストラリアのカンガルー島の例では、クルーズ船が頻繁に訪れることとなった島の、住民の心配事をすべて並べ、それらをモニタリングすることから始めたといいます。ここでは、地域の経済、住民の暮らし、地域の宝、そして満足のいく体験、これらの4つの視点から地域の持続可能性(健康度)を測っているそうです。

沖縄県でも「持続可能性指標」を取り入れており、チェックを続けています。現在では、 日本版持続可能な観光ガイドライン(観光庁、UNWTO駐日事務所)も作成され、2020年6月に公表されています。

  • 1つのキャリングキャパシティより、多様な指標
  • 前提として、指標を活用する目的を明確にする

この2つが重要だと中島さんは強調します。

●3.5%の本気・行動から世界を変える(かもしれない)

しかし、持続可能な観光のあり方は、基準を示す、モニタリングだけではなかなか広がりません。 サステナブル・ツーリズムは、まだまだ市場のごく一部、10%以下でしかないそうです。 しかし、「3.5%の人が本気で立ち上がると社会を本格的に変革することができる*」ということから、サステナブルツーリズムについても、支持する人々が3.5%以上になれば、持続可能な観光がもっとメジャーに、そして「新しいふつう」に変わっていける可能性がありそうです。

*過去にあった政権交代などの運動を検証すると、全人口の3.5%以上が参加していた、という調査結果がもとになっている。

「暮らしを旅する」新たなあり方―㈱美ら地球 山田拓氏

岐阜県の飛騨高山で「SATOYAMA EXPERIENCE」を展開する山田さん。そのコンセプトは「暮らしを旅する」です。雄大な自然が広がる風景…行ってみたいですね。 その顧客の90%がヨーロッパ、アメリカとオーストラリアから。顧客満足度もTrip Advisorで99%超えの高評価だそうです。

「日本の田舎をクールに」をテーマに、飛騨以外の地域において事業展開も行っています。 現在は、新たなチャレンジとして「SATOYAMA STAY」と題し、まちの中の古い町家を活用した分散型のホテルの経営も始め、お客様と一緒に地元の料理をつくることができるワークショップなども体験できるそうです。

●すべてのビジネスがソーシャルであるべき

山田さんは、「ビジネスとは、社会課題を解決する手段」という認識から、「全てのビジネスがソーシャルであるべき」と言います。

  • 交流人口増加による経済貢献
  • 雇用創出による定住生産年齢人口の確保
  • 遊休不動産の減少 ・域内投資による地域内の経済循環の創出
  • 域内新規事業の誘発
  • 地域資源の保全機運の醸成
  • 地域の魅力を再発見する機会の創出

など、事業の上で地域の経済をきちんと回しながら、地域の資源の価値をきちんと認めること、 その積み上げを繰り返すことで、地元の人も地域の魅力を深く理解し、 定住やUターンにも繋がるといいます。 「コロナはいきなりやってきたけれども、向き合う本質は変わっていない。」 「広い視野をもって、各地で新たな価値提案をすれば、観光ビジネスは、地域の持続可能性に寄与できる」と山田さんは断言します。  

アフターコロナで観光が提供できる価値とは?<クロストーク>

元々観光によく行っていた人ほど、今すぐにでも観光に行きたいと思っているというデータが出ています。その流れの中に、「サステナブルツーリズム」の話もよく聞こえます。コロナ前には、オーバーツーリズムについて懸念する声が多くありました。コロナが落ち着いたとしても、ただ元に戻るのではなく、理想のあり方がどのようなものか、今立ち止まって考えることができているように感じます。

サステナブルトラベラーがマジョリティになることを期待できるという話だと思います。日本政府は「住んでよし、訪れてよし」を掲げていますが、実際は「訪れてよし」側に傾いていたと思います。しかし、地域の指標をきちんと取り入れることで改善できるはずです。それは、これまでの取り組みの中でもできると確信しています。これからは必然的なことになってくるはず。どんな人達とどんな関係性を作っていきたいのか考えるタイミングが今なのだと思います。」

事業者が主体的に持続可能性を求めるモチベーションとは

世界持続可能観光協議会(GSTC)の認証を取るという動き、そしてその取得を促進するという動きはどこかの地域で具体的にあるのでしょうか」

「そもそも関係者がきちんと合意形成できているところが稀。地域のこれからを話合う場をつくらなければ、色々な指標を取り入れてもあまり意味がないとは思っています。まだ、これらの指標について理解もあまり得られていない段階だと認識しています。」

「沖縄では独自の指標を作り運用しているということでしたが、事業者のサステナブル経営を促進するような指標も含まれているのでしょうか。」

「そのような指標は、実はないですね。良い例として紹介しましたが、本来は計測結果でチェックしないといけないが、目標数値だけ決めると追い込まれるので、モニタリングだけをしているような状態です。」

「世界からお客さんが来るよ、というモチベーションで事業者に認定を取らせようとしている傾向もあると思います。それについて、山田さんはどう思いますか。」

「本来は、行政任せや上から言われてやるのではなく、事業者がきちんと自分たちでできるようになるのが理想ですね。」

「くう、ねる、あそぶ」をサステナブルで整える

「サステナブルツーリズムを志向する層は、確かに現在ではかなりニッチなマーケットです。求められるものにピンポイントで価値を提供しなければいけない。それには、”くう、ねる、あそぶ”を全てサステナブルなものとしてトータルで提供するということが求められると考えます。SATOYAMA STAYはその考え方に基づいています。本当に持続可能な体験を提供したいのであれば、どれだけトータルでサステナブルにできるか、ということが求められているはずです。」

「これまでも色々な観光地を見てきましたが、これまでは地域のセクターの存在が薄かった。地域に、地域の観光について意識がある人々が多く、”住んでよし”の環境が整っているところがサステナブルに近づいていくのだと思います。ですので、”住んでよし”という環境を立て直していくことがその一歩ではないかと考えています。」

最後に―「逆に持続可能じゃなくていいんですか?」

「沖縄市にせよ、沖縄県にせよ、ぜひ日本版の観光ガイドラインを読んでいただきたい。その指針をチェックしていただき、進めていただければと思います。また、交通公社から発行している『観光文化』の最新号は”現場で語る、持続可能な観光の本質” というテーマになっている。無料でPDFで配布していますので、ご興味ある方はぜひお読みください。」

「今回は持続可能性に寄与できるか、という問いがテーマでしたが、むしろ”持続可能じゃなくていいんですか?”という問いに答えるべきだと思っています。寄与しなければいけないのであれば、その具体的な方法を考えなければいけません。長期的な視点をきちんと考えること、何をすればいいのかを考えること。少しずつ、できることは何かを考えられる人が一人でも増えたらと思っています。」

  地域における持続可能な観光の重要性について見つめ直し、 持続可能な観光が新しいふつう、になるチャンスは今だということを確認した上で、 それがいかに可能か?のヒントを沢山いただけるイベントとなりました。

次回は、これまで3回のイベントの内容をもとに、これから沖縄の観光産業をつくりあげていく 沖縄側の方々と、「沖縄観光産業のニューノーマル」のあり方について考えていきたいと思います!