2024年9月18日起業・創業
漆器が伝える日本の美意識と工芸の価値。|漆器職人 照屋翔士さん
Lagoon KOZA創業相談者インタビュー
Lagoon KOZAでは、年間300件を超える創業相談を受けてきました。昨年(令和5)年度は、相談を経て69人の方が創業されています。
事業の内容はさまざまで、廃棄ロスのアップサイクルから居酒屋まで、スモールビジネス、ソーシャルビジネス、スタートアップまで多岐に渡っています。
今回は、そんな創業相談の中でも、ここ数ヶ月で増えてきた「伝統工芸作家さんの独立や事業拡大の相談事例」についてご紹介します。
漆器職人 照屋さんに聞く「漆器が伝える日本の美意識と工芸の価値」
照屋さんが漆器制作を始めたきっかけは、幼少期から身近にあった漆器との触れ合いでした。実家が漆器に関わる家系だったものの、最初は東京での音楽活動に専念していた照屋さん。音楽を通じて思想を表現することに憧れ、特にジョン・レノンの影響を受けたそうです。しかし、20代の頃、祖母からの一言で本格的に漆器の道に足を踏み入れ、職人の高齢化と世代交代の問題に直面。自分の力で技術の継承と発展に寄与したいという思いから創業に至りました。
インタビューの様子
漆器職人としての背景について
漆器制作を始めたきっかけについて詳しく教えてください。
照屋さん: 「ものづくりが好きなら、職人としての道を考えてみてはどうか」と祖母から言われたことがきっかけで、漆器制作をする決意をしました。実は、その当時まで実家の仕事をするつもりはなく、音楽活動に専念するつもりでした。しかし、改めて家業を見直し、また家業とは別の方向で漆器制作をすることにしました。
実家は代々、仏壇や仏具の制作販売を手掛ける家系で、幼少期から漆器に触れる機会がありました。ただ、当初音楽に強い興味を持ち、高校を卒業してからしばらくは東京でバンド活動をしていたんです。その後、音楽の道を追い求め北アメリカ大陸を縦断、帰国後に結婚し子供が生まれたので、生活基盤を整えるために漆器制作を本格的に始めました。30歳ごろまで続けながら、工芸の現状を見て、自分で創業する決意を固めました。
工房の様子
音楽活動を始めるに至った経緯や、音楽活動から漆器制作に進む決意の背景について、さらに詳しく教えてください。
照屋さん: 音楽活動に興味を持ったのは、音楽が持つ思想性に惹かれたからです。小学生の頃は流行りのJ-POPを表面的なものに感じていましたが、洋楽に触れ、ジョン・レノンが音楽を通じて世界平和を訴える姿に感銘を受けました。この影響で、自分の思想を音楽で実現する方法を見出し、本格的な音楽活動を開始しました。しかし沖縄ではバンドを組む機会がなく、高校卒業後、上京する決意をしました。上京後は自由に活動できる環境を整え、レーベルには所属せず、YouTubeやSNSを利用して活動を広めました。バンドのコンセプトは、一体感を持てる曲作りをすることでしたが、メンバーとの温度差から3年で解散しました。
その後24歳の時に、ギター片手に北アメリカ大陸を縦断し、カナダからアメリカ西海岸、メキシコ、グアテマラ、キューバを訪れました。この旅で地域の温かさや人との触れ合いを再認識し、幸福度が物質的豊かさとは関係ないことを強く感じました。
帰国後は結婚し、子供が生まれた後、生活基盤を整えるために漆器制作を本格的に始め、30歳ごろまで続けながら創業を決意しました。
技術と伝統の継承
漆器制作の中で特に大切にしていることは何ですか?
照屋さん: 漆器制作において最も大切にしているのは、日本の美意識のひとつである「見立て」の考え方です。例えば、枯山水の砂利が「川」に見立てられているように、漆器でも一見シンプルなものが、実は深い意味や美しさを秘めているという考え方です。漆器は長期間使用できるため、使うことで味わいが増し、その過程での変化も楽しめるという点も重要です。
「見立て」という考え方に至るきっかけは、妻の妊娠と出産の経験でした。
出産後、妻は妊娠線を気にしており、ネガティブな感情を抱いていました。しかし、私はその妊娠線を「子どもたちが元気に過ごせるのは、妻が命がけで子どもを産んでくれた証だ」とポジティブに捉えることで見方を変えました。私の漆器と美意識の考え方に大きな影響を与えた出来事でした。
位牌作りの様子
創業について
創業を決意したきっかけは何ですか?
照屋さん: 修行時代の経験から、職人の高齢化と技術の継承問題に深い危機感を抱きました。職人の子供たちが仕事を継ぎたいと願うこともありますが、金銭的な理由で断念せざるを得ないケースが多いのが現状です。職人自身はその仕事を心から愛しているものの、子供たちにその厳しい現実を引き継がせることに躊躇してしまいます。こうした状況を目の当たりにし、貴重な技術が失われてしまうことを大変残念に思いました。
私自身も、職人であった祖父が亡くなり、技術を直接教えてくれる人がいなくなったため、下請けの職人を訪ねて一度だけ技術を見せてもらい、それを何度も頭の中で再生しながら技術を習得していきました。職人に何度も教えを請うことができなかったため、見て覚えるという手探りの修行でした。また、沖縄県の施設で漆器全般の作り方を学んだ経験もあり、その知識を基に技術を再現してきました。最初は位牌の金を貼る作業から始め、螺鈿技法やその他の技術を習得し、現在では木地を除くほとんどの位牌作りができるようになりました。
位牌作りの様子
創業するにあたって、どのようなビジョンや目標を持っていますか?
照屋さん: 大量生産・消費といった工業製品的な売り方が目立つ中で、漆器が持つ長い時間の感覚を大切にし、工芸品としての独自の価値を提案したいと思っています。例えば、修行僧が食事の際に使う応量器を作り、食事を通じて自然との繋がりを感じられるような器を提供しています。
そして、漆器を通じて「人の不幸を少しでも取り除く」ことをミッションにしています。漆器のデザインや使用方法から、物事の見方を変えたり、ポジティブな面を引き出すことに重点を置いています。見立ての考え方が活きてくると感じています。
応量器
創業に際して、最も大きな課題は何だと思いますか?それをどう克服しようと考えていますか?
照屋さん: 最大の課題は、経営の知識不足です。ものづくりはできますが、経営には専門的な知識が必要です。そこで、経営の専門家と連携し、アドバイスを受けながら学ぶ必要があります。また、業界のイベントやビジネスマッチングの機会を活用し、支援を受けられる環境を整えていきたいです。
さらに、経営面だけでなく、横に広がるような仲間やサポーターとの連携を強化し、互いに支え合いながら進めていくことも重要だと考えています。
創業にあたって、最も楽しみにしていることや期待していることは何ですか?
照屋さん: 創業を通じて、自分のアイデアやビジョンが形になる瞬間を楽しみにしています。漆器がどのように現代のライフスタイルに溶け込み、新しい価値を提供できるのかを見るのはとてもワクワクします。また、国際的な市場に漆器の魅力を伝え、伝統と革新の融合を実現することができれば、それは非常に大きな達成感につながります。
応量器を広げた時の様子
漆器の未来とメッセージ
最後に、読者に向けて漆器の魅力やメッセージをお願いします。
照屋さん: 漆器の魅力は、その耐久性と美しさにあります。しっかりとした漆器は、メンテナンスを続ければ何百年も愛用でき、時間とともにその風合いや輝きが変化し、使うほどに愛着が増します。傷や艶が重なることで、漆器は一層味わい深くなります。漆器を通じて、自分の美意識や生活の価値を再発見し、日常に豊かさをもたらす一助となればと思います。
Lagoon KOZAでは、事業アイデアの壁打ちから資金調達の相談まで、幅広くサポートしています。
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