2023年6月5日イベントレポート

【開催レポート】 アースデイアクションKOZAに16社315名が集結。「地球と沖縄の未来のためのイノベーション共創」をテーマに

コザスタートアップ商店街実行委員会(※1)は2023年4月21日(金)22日(土)の2日間にわたり「アースデイアクションKOZA」を開催いたしました。

コザスタートアップ商店街は、一番街(沖縄県沖縄市)を中心とする商店街エリアに過去5年で50件以上の新規出店やオフィス入居を喚起。挑戦者を迎え入れるオープンイノベーション拠点として注目が集まっています。

「アースデイアクションKOZA」は「アースデイアクション沖縄2023」の一環として、沖縄本島の他エリア(やんばる・那覇・南城)と並行して実施しました。挑戦者が集うコザスタートアップ商店街の特色を生かし、「地球と沖縄の未来のためのイノベーション共創」をエリアテーマに掲げたイベントの模様をお届けします。

すこやかウェルネスアイデアソン 4月21日(金)16時−18時

アイデアソンとは、マラソンのようにアイデアを量産する企画。沖縄市の地元企業で本イベントのメインスポンサーである株式会社すこやかホールディングスがホストとなり、「沖縄の健康課題をウェルネスにシフトするには?」をテーマにアイデアを出しあいました。

はじめにすこやかホールディングスグループの株式会社すこやかホールディングス副社長の宮里早香さんより沖縄の健康課題について情報が共有されました。「肥満や生活習慣病が蔓延しており、健康診断の再検査通知率はダントツで全国ワースト1。戦後の食文化の変化や車社会による運動不足が原因と見なされています。」宮里さんは、これを解決するために「ウェルネス」という概念を提示。「ウェルネス=よりよく生きようとする態度」の8つの分類「身体・知性・環境・感情・金銭・職業・社会・精神」をものさしに、個の健康状態における課題の発見と理想への道筋となるアイデアをリクエストしました。その後、主婦やキャリア教育企業の社員、県外からの参加者など15名が4チームに分かれて協議。

「ファストフード店に健康食品を置いてもらう」「個人の体質に適応した運動方法や24時間利用できるジムを提供する」「地方銀行と提携してクレジットカードを発行し食べたもののカロリーを明細で可視化する」「経営者が健康診断に行くと融資の金利が安くなるようにする」など、斬新なアイデアが創出されました。

トークセッション@Startup Lab Lagoon 4月22日(土)16時−18時

Lagoon KOZAでは、ビジネスやパブリックセクター、コミュニティの最前線でアクションする実践者の皆様によるクロストークセッションを実施しました。

「泡盛から宇宙まで食から起こすサステナフード革命」

株式会社ルナロボティクス代表取締役社長 岡田拓治氏 × 株式会社AlgaleX 高田大地氏

このまま天然資源が枯渇していけば、そう遠くない未来に今当たり前に食べているものが食べられなくなる— この課題に、「海の魚がもたらす栄養を藻で代替する培養技術」と

「月面での生活を想定した調味料プリンタ」という全く別の切り口からアプローチする2社の創業 / 経営者が食の持続可能性をテーマに語り合いました。
株式会社AlgaleX の高田さんは
「天然の小魚が大量に魚粉に加工され養殖業に利用されている。このままでは海の魚がいなくなってしまう」と持続可能で美味しい代替海洋資源の生産方法を模索。
未利用の泡盛かすを特定の微生物で発酵させることで、魚に含まれるDHAをはじめとする栄養素や旨味成分を豊富に含む藻「Umamo」の抽出に成功しました。
一方の株式会社ルナロボティクス岡田さんは、2040年に月面に1000人が住む未来を想定したプロジェクトを紹介。
無重力下で料理の選択肢を広げるため、6種類の調味料を自動的に調合する調味料プリンタの開発について明かしました。

「”さとうきび”から”かりゆし”へ 異業種コラボが産む地域循環共創」

ゆがふ製糖株式会社管理部長兼工務部長 伊波達夫氏 × 株式会社BAGASSE UPCYCLE 代表取締役小渡晋治氏

沖縄本島唯一の製糖工場を営むゆがふ製糖株式会社は、国頭村から糸満市まで約4500名の農家が栽培・収穫したさとうきびを、
グラニュー糖などの原料となる「原料糖」に一次加工して県外に出荷しています。さとうきびを圧搾した際に残る「バガス」のうち、8-9割は工場内で燃料としてリサイクルされており、年間消費電力の約9割をまかなっているそう。
それでも使いきれない未利用のバガスからかりゆしウェアを製造しているのがBAGASSE UPCYCLEです。
小渡さんは
「限りある資源を生産→消費→廃棄の一方通行で終わらせない循環経済を実現するには、従来のリサイクル以上に
廃棄物の価値を高める”アップサイクル”が重要」
とプロジェクトの基本的な概念を説明。また、製造するかりゆしウェアは
観光客がより一層沖縄を楽しめるよう紅型などのデザインで仕立てているほか、両社は製糖工場をVR見学できる新しい産業ツーリズムの開発でも協働しており、
バガスや生産現場の高付加価値化による未来のさとうきび産業の姿を共に描いています。伊波さんは「さとうきび産業は、農家の収入にして180億円、関連産業も含めると1000億円規模に上る。
高齢化などで農家は減っているが、効率化や高収益化によって2500ヘクタールの作付け面積を3000ヘクタールまで増やしたい」と展望を語りました。

「世界の食糧、ゴミ問題を救え!沖縄発グリーンイノベーション」

株式会社トマス技術研究所代表取締役福富健仁氏 × EF Polymer株式会社 COO 下地邦拓氏

 沖縄で確立させた高い技術で「ゴミ」と「飢餓・貧困」という世界的課題に取り組む2社が登壇。
社員35人中20人が技術者というトマス技研は、全自動制御で駆動する無煙小型焼却炉「チリメーサー」の基礎研究・製品開発・設計・製造・販売を全て自社で手がけています。

福富さんは「大手が目をつけない離島僻地の課題に正面から向き合ってきたからこそ持っている技術とノウハウが強み。
強みを自覚しているから、世界で役に立てている」と述懐。ごみ処理体制の構築が経済成長に追いついておらず、廃棄物対策に苦慮するインドネシアの人々を救っています。注射針ゴミが原因で感染死した親族を持つ人物と使命感を共有できたことがチリメーサーを
OEM生産する現地法人の設立につながったと振り返りました。

一方のEFpolymerは、インド発の基礎技術をOISTで確立させ、農産物の不可食部分から完全有機生分解性ポリマーを製造。
自重の100倍の水を6ヶ月間吸放出し1年で土に還るポリマーを旱魃に悩む生産者に提供し、必要な水を40%削減するなどして
農業の持続可能化に寄与しています。。EFpolymerが臨むのは全世界で9億人の農家が生み出す18兆ドル市場。
すでに5カ国7000農家にアプローチしています。

「まちなか留学基金で全ての子どもたちに留学体験を!沖縄発スタートアップの挑戦」

伊江村立西小学校校長 赤嶺美奈子氏 × 株式会社すこやかホールディングス取締役副社長 宮里早香氏 × NPO法人エンカレッジ 村濱興仁氏 × Helloworld株式会社代表取締役Co-CEO 冨田啓輔氏

「まちなか留学」は、在沖縄の外国人宅に滞在して国際交流を体験するプログラム。
Helloworld株式会社が運営するこの有償体験プログラムを、あらゆる子どもたちを対象に無償で提供しているのが「まちなか留学基金」です。

トークセッションでは、家庭の経済状況によって生まれる体験格差の解消が、子どもたちや社会にもたらす価値について活発な議論が交わされました。運営する無料塾の子どもたちをまちなが留学に送り出しているエンカレッジ村濱氏は、「日本財団の調査によれば、『①生活習慣 ②学習習慣 ③思いを伝える力』が揃っている子は貧困世帯でも学力が下がりません。ところが、特に③は多様な出会いや関わりによって育まれるため、家庭の経済状況による体験格差が影響しやすい」と、(異文化)体験における機会の平等の重要性を示唆。これを受けて赤嶺校長からは「まちなか留学に参加した子どもたちから『国際交流なんて自分には無理だと思っていた』という言葉が多く出る」と、
子どもたちが言葉や文化の壁を越える成功体験を得ていることが共有されました。

沖縄市で薬局や保育園を営むすこやかホールディングス宮里副社長は「コミュニケーションの力を伸ばしたり、何かに挑戦することは教育の大事な部分。地域の子どもたちが能力を開花させながら成長すれば、いずれわれわれ企業にも返ってくる」と地域社会の礎である教育に
貢献する意図を明らかにしました。

「美ら海を次の世代に伝えるためにできること」

株式会社マナティ代表 金城由希乃氏 × NPO Churamura Carl Bastian氏

金城さんはビーチクリーン、Carlさんはウミガメの保護活動を通して、沖縄の美しい海を未来につなぐ活動を推進しているお二人。
現場から見えている”人びとの良心”や”自然への理解不足”など、海やウミガメを取り巻く希望と課題が語られました。

「プロジェクトマナティは、500円払うと準備も片付けもなしでゴミ拾いができる仕組みです。
拾ったゴミは、離島も含めた沖縄県内110ヶ所のパートナーさんが各市町村のルールに則って処理してくれるんです。
旅人にとっては『お金を払ってゴミ拾いしてくれる人が来た』と、”いい人スタート”で地元の人とつながれるきっかけに。
地元のパートナーさんにとっては、地元のビーチが綺麗になったり、地域のことを知ってもらうきっかけになる。
儲かることではないのに手を挙げてくれた多くのパートナーさんと、旅先でゴミを拾って海の綺麗さに貢献したいという人たちが、温かい良心で繋がりあっています(金城さん)」
「これまでに89回のウミガメ上陸調査や28ヶ所の産卵層の見守りを実施してきました。
子どもたちにウミガメの生態を教える教育活動も行なっていますが、産卵場の上でBBQをする人もいるし、放した犬が産卵場を掘ってしまうことも。それなのに、産卵場を網で囲って看板を立てたら役場から『違法建造物』と指摘されて撤去せざるをえませんでした。まだまだ共存のための理解が進んでいないと感じています(カールさん)」

「投資で社会と自然環境を変える?」インパクト投資の可能性について

ケイスリー株式会社 幸地正樹氏 × 株式会社うむさんラボ Chief Investment Officer 大西克典氏

社会課題の解決を目指す起業家や事業者のサポートに取り組むお二人が、「インパクト投資」をテーマに対談しました。
経済的リターンよりも社会的インパクトに重きを置く投資を増やし、お金の流れを変える「インパクト投資」とは?

幸地さんは「”お金儲け”と”社会にいいことをする”の両方を目指すのがインパクト投資」と基本的な概念を説明。
「インパクト投資で重要な要素は4つとされています。『ポジティブな社会的インパクトを生み出す意図があること』『寄付とは異なり経済的リターンも目指していること』『投資対象となる資産が多様であること』『社会的インパクトを測定・可視化すること』。
現在、海外で100兆円以上、日本で5兆円の投資残高があります」と続けました。

これに応じて大西さんは「うむさんラボは、社会起業家の発掘・育成・支援のほか、自ら社会的事業を起業しています。
その一つが『ゆいといろ』。シングルマザーや発達障害を持つかた、メンタル不調者や引きこもりの方々が中小企業の
バックオフィス業務を請け負うためのプラットフォームです。働き手のひとりは収入ゼロの状態から時給820円で働き始めて、
去年はなんと年収520万円を稼ぎました」と、社会的インパクトを意図し測定可能な成果が出せた好例を示しました。

「ただし、社会にいいことでも銀行や一般的なファンドからは投資資金が出にくい。そこで、新しい資金の流れが必要と考え、
5月に沖縄の社会課題に特化したインパクトファンドを立ち上げます」と新たなアクションにも言及。両者の間で、「沖縄には模合や資金造成といった共助の文化がある」「社会課題の縮図のような沖縄で新しく温かいお金の循環を生み出せれば、モデルケースとしてアジアや途上国、世界中へ広げられる」「預金者が銀行に対して『社会にいいことにお金を回して』と意思表示することも有効」など、ディスカッションが展開しました。

「県内唯一の銭湯を残そう!」沖縄の事業継承の課題解決のためにサーチファンドができること

中乃湯 仲村一郎氏 × 琉球ミライ株式会社代表取締役 野中光氏 × 外資系投資銀行 荒井孝介氏

県内に唯一残るコザの銭湯「中乃湯」は創業60年を超え、95歳の名物女将が一人で切り盛りしています。
息子である仲村さんは琉球大学の教授を務めており「定年したら継ぎたいけれども、建物も老朽化しているし、母の体力が衰えて営業時間も短くなっています。それまで続けられるのか…」と頭を悩ませているそう。
存続を願う仲村さんをサポートしているのが、県内自治体の教育事業・産業振興プロジェクトを多数手がける野中さんと、外資系投資銀行に勤めながら沖縄に足繁く通い起業家支援などを行う荒井さんです。

荒井さんは「規模の問題で通常のM&Aの手法では次の経営者につなげない。また、仲村さんのようなひとり経営者は超人的で代わりとなれる人は簡単には見つからないことや、長年培ったファンの存在を含むブランド力をオーナーが自覚しておらず、言語化・可視化されていないことも課題です」と小規模事業者の事業継承課題を総括。

野中さんは「ある調査では事業者の84%が『後継者がいない』と回答しており、黒字で儲かっているビジネスが沖縄からなくなっていっている。なんとか解を見出したい」と3者で協議を重ねてきた背景を明かしました。さまざまな手法を検討した上で、熱烈なファンや新たに興味を持った人々が、「中乃湯に関われること」を報酬に時間や労働力を提供するプラットフォームの構築を実験的に始めるとのこと。「中乃湯ではすでに、お客さんが勝手に鏡やホースをつけたり、掃除をする人もいて、尋常ではないオーナーシップを発揮している。ファンのチカラを集約できれば」と会場の聴衆にfacebookグループへの参加を呼びかけました。

シブヤとコザの共通点?これからのソーシャルシティーデザイン

渋谷区観光協会代表理事 金山淳吾氏 × 沖縄市観光スポーツ振興課主幹 宮里大八氏

「世界的に都市開発が成熟しており、ソーシャルデザインがテーマになっている」という金山さんのキーセンテンスから始まった対談。2023年8月にFIBA Basketball World Cupが開催される沖縄市の宮里さんが示した「スポーツを通じたインバウンドをどう地元のソーシャルデザインにリレーションさせていくか」とのテーマに対し、金山さんが東京五輪で仕掛けた先行事例から見通せる”ヒント”が語られました。「日本に集まる外国人にどんな『東京』をコミュニケーションするか。スポーツに留まらない目線でアイデアを膨らませ、
『The Tokyo Toilet』プロジェクトを発案・実現しました。16人のクリエイターが17ヶ所の公衆トイレや清掃員の制服をデザインして街をPRした結果、『暗い・汚い・危険』なイメージのあった公衆トイレが生まれ変わり、五輪後も地元の人や東京への観光客に使われるようになるという社会的で持続的なインパクトを生み出せました(金山さん)」

これを受けて宮里さん「スポーツは『見る』『する』『支える』の3つの関わり方がある」と補足。

金山さんは「『見る』『する』『支える』にどんな別の文脈をくっつけると連携できる協賛企業が増えるか、イベント後も続くソーシャルアクションを支えるコミュニティが生まれるか、といった視点が重要」と結論づけました。このほか、100社の企業が渋谷のソーシャルデザインに参画するプラットフォームとして設立された「一般社団法人渋谷未来デザイン」や、生まれたアクションやつながりを外に向けて発信する”文化祭”としての都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK」に言及。宮里さんは「渋谷とつなぎ、沖縄市やコザでも仕掛けたい」と締めくくりました。

リーダーズセッション 官民一体で育む新しい経済と文化

沖縄商工会議所会頭 / 株式会社すこやかホールディングス代表取締役社長 宮里敏行氏 × 沖縄商工会議所副会頭 / 株式会社仲本工業代表取締役社長 仲本豊氏 × 沖縄市経済文化部長 花城博文氏

モデレーター 沖縄市議会議員 嵩元なおも氏

沖縄市では2021年、1万人収容の沖縄アリーナが開業しました。従来からある「競技者ファースト」の公設体育館・スタジアムとはコンセプトが異なり、「観客ファースト」で設計されたスポーツエンタテインメント施設です。

宮里さんは「完成は奇跡。桑江市長が『1万人アリーナ構想』を打ち立てた時はホラ吹きのように言われていた」と振り返りました。これを受けて「カメラマンと2人で仙台アリーナを視察に行き、撮ってきた写真を持って僕らの夢を超党派の市議会議員や市長・副市長に共有したところからスタートした」と仲本さん。2023年8月にはバスケットボールの世界大会「FIBA Basketball World Cup」が、10月にはDREAMS COME TRUE のコンサートが現実のものとなりますが、当時からボクシングの世界タイトルマッチやアイススケートのグランプリファイナルも、と夢を描いていたとのこと。花城さんは「アリーナの効果は1970年台から米国で研究されていて、『周辺の再開発の誘因』と『シビックプライド』の2つが期待されました。すでに2つの中規模ホテルが完成し、8月には仲本工業さんが建設しすこやかホールディングスさんが経営する4つ星ホテル『レフ沖縄アリーナbyベッセルホテルズ』がオープンします。

ホテル不足解消により、インバウンド客の滞在時間や域内消費の向上が見込める」と経済効果を説明。
宮里さんは「ただのホテルではなく、街づくりの拠点として位置づけている。中心市街地の通り会などと連携して
沖縄市のシンボルとなるような活動をしていきます」とホテルを起点とするシビックプライドの醸成への志を明らかにしました。

ミライLUNCHミートアップ supported by Panasonic @X-Border

パナソニックホールディングスEX革新室から、ウェルビーイング、生物多様性、サーキュラーエコノミーの各分野における世界の最新トレンドがシェアされました。ランチ会場には、アイデア交換や名刺交換をする方々が定員20名をはるかに超えて集まりました。

※1 コザスタートアップ商店街

コザスタートアップ商店街運営事務局が主体となり、沖縄市沖縄の文化圏「コザ」の一番街を中心とする商店街エリアに挑戦者を呼び込み商店街の活性化を図るエリアブランディングプロジェクト。事務局はコンソーシアムで運営されており、構成主体は、株式会社 Link and Visible(代表取締役CEO 豊里健一郎)株式会社琉球ミライ(代表取締役 野中光)の2社