「人が足りない」を「魅力が足りない」と読み替える。──人手不足対策フォーラム開催レポート【事例紹介編】
2026年6月22日(月)、人手不足対策フォーラム「『人が足りない』からの脱却 攻めの採用戦略×守りの定着戦略」を開催しました。会場・オンライン合わせて定員60名満員のなか、沖縄県内で実際に成果を上げる事業者3名による事例紹介と、支援の現場に立つ専門家3名によるトークセッションをお届けしました。本フォーラムは沖縄県(令和8年度 人手不足対策理解増進普及事業)の主催で実施しています。
当日、進行役からまずお伝えしたのは「聞いて終わりにしない」という視点でした。事例やトークを自社の課題に照らし合わせ、明日から起こせる小さなアクションのヒントを持ち帰っていただくことが、このフォーラムのゴールです。
この記事では、前半の事例紹介をレポートします。後半のトークセッションは別記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
👉 【トークセッション編】「人手不足」という言葉を紐解く はこちら
人手不足対策は「採用」だけではない
沖縄県では令和6年に「人手不足対策アクションプラン」が策定されています。人手不足と聞くとどうしても「どう人を集めるか」という採用の話になりがちですが、実際には採用・育成・定着・効率化といったあらゆるアクションが少しずつ効果を発揮します。そして公・労・使(行政・働く人・経営者)の三者が連携して取り組むという考え方が、その土台にあります。
県が運営する支援情報サイト「OASIS」では、自社に合った支援制度の検索や他社事例の閲覧、セミナー・相談会の情報をまとめて確認できます。自社だけで抱え込まず、公的なサポートも使いながら解決していく―その入り口としてぜひ活用ください。
👉OASISホームページはこちら
事例1:人手不足を「魅力不足」と定義する
與那城一哉 氏
医療法人大平会 嶺井第一病院 リハビリテーション科 部長
與那城氏は、人手不足の本質を外部要因(採用市場や条件面)のせいにしがちだった過去を率直に語りました。大手や大病院は給与・待遇・休日数で優れている。そこに勝つのは難しい―そんな諦めにも似た感覚があったといいます。
転機となったのは、前年度の人手不足対策セミナーで得た「内部要因=業務効率化や魅力の発信」という視点でした。外部の採用市場は条件面の消耗戦で競合がひしめく一方、「社内の魅力探し」には競合がいない。ここはブルーオーシャンだと捉え、ゼロコストでできる魅力探しに踏み出します。
セミナー受講の2週間後にあった就職説明会では、求人票やパンフレットの読み合わせをやめ、当院の魅力を発信するスタイルへ転換。結果、新卒2名の採用に成功しました(県内外500件・新卒22名の母集団から)。
魅力の原石は、すでに職場に眠っている。2年前から「結果を知るためだけ」に取っていた職場アンケートを掘り起こし、満足度の高い項目は自信を持って魅力として発信。逆に数値の思わしくない項目は「課題の可視化→真因分析→業務改善」のサイクルで改善し、それ自体を新しい魅力へと転換していきました。求職者が本当に求めているのは、求人票の決まり文句ではなく体験者の声という一次情報だと確信したといいます。
こうした取り組みの成果として、與那城氏は具体的な数値を共有しました。
・残業削減72%。全国のリハビリ職の月平均残業が1人あたり約5時間に対し、同課22名で合計約6時間(1人あたり1日1分程度)という水準を就職説明会で提示。
・職員満足度90%。「働きやすい」「先輩が指導してくれる」といった抽象表現ではなく、働きやすさ・人間関係・上司の支援・勤務体制で90%という明確な数値で示す。
・今年度の採用11名(新卒3名・リファラル6名・ホームページ経由2名)。欠員補充ではなく、新規事業展開のための増員交渉の材料としても、これらの数値が大きな意味を持ったといえます。
魅力探しは副産物も生みました。VRリハビリ機器の県内初導入、脳ドックへのVR神楽の活用(日本初)、リゾテックエキスポでの実証実験を経た製品化、日本マイクロソフトとの連携、Microsoft AIツアー東京への招待―。医療業界の中だけにとどまらず外部へ飛び出すことで、新たな魅力とつながりが生まれていきました。
與那城氏が最も伝えたかったのは、「魅力探し」という大義名分そのものが組織を変えるということ。失敗も「次への学び」として共有することでチャレンジする文化が醸成され、小さな歯車が連結して大きな組織を動かす原動力になる。「魅力で競い合う沖縄県に」という願いで発表を締めくくりました。
事例2:人手不足に向き合う、等身大のDX
上地杏奈 氏
株式会社かりゆし 経営推進本部 戦略企画部 DX推進グループ マネージャー
1962年創業、社員500名超の老舗ホテルチェーン・かりゆし。24時間365日お客様の安全を守る産業として、常に人手不足と向き合ってきました。ITエンジニア・経営を経てDX推進を担う上地氏が最初に取り組んだのは、DX推進ビジョンの策定でした。「業務改善をするぞ」という号令だけでは人の心は動かない。かりゆしに関わる全ての人に幸福を提供する、その手段としてのDXであるという方向性を先に掲げたといいます。
取組(1)客室清掃DX
チェックアウト11時からチェックイン15時までのわずか数時間で約500室を仕上げる過酷な現場。「清掃する人が足りない」という声の解像度を上げて分析すると、清掃スタッフが紙の指示書の取りまとめ、電話での客室状態確認、報告、忘れ物記録まで担い、情報が人に閉じて属人化していた実態が見えてきました。
そこで、省人化ではなく「人が清掃に集中できる環境づくり」を目的に、システムと人の役割を切り分け。タブレットでチェックアウト状況を手元確認できるようにし、忘れ物はAIによる写真判別で登録――文字入力が難しい世代のスタッフでも「写真を撮るだけ」のオペレーションにしました。月1回の伴走支援で現場と対話を重ね、納得感を作りながら運用を育てた結果、数値にも変化が表れます。
・深夜フロントの清掃指示書作成:約1時間 → 5分
・チェックアウト時の確認電話:75%削減
・平均清掃時間:48.5分 → 37.9分
加えて忘れ物機能はフロントの即時対応を可能にし、部門を超えてホスピタリティの質を高めました。
取組(2) DXエバンジェリスト育成
現場の暗黙知をDX推進グループだけで言語化するのは不可能。そこで各部門に「少しDXが分かる人」を育てる教育事業を、約100名規模で展開しました。集合研修を経て、現場で働く社員から数々の改善提案が生まれ、その表情は普段の業務会議では見られないほど生き生きとしていたといいます。「デジタル化」を語る人はおらず、皆が推進ビジョンの体現、つまり「どうやったら幸せな未来が訪れるか」を真剣に話し合いました。
2つの実践に共通するのは、仕事を見える化し、自分たちの手で改善し続けられるという「自己効力感」を育てること。これがエンゲージメントを高め、定着につながります。「人を減らすためのDXではなく、人が本来の力を発揮し、輝くための、幸福を創造するDX」という宣言で結びました。
事例3:職員の悩みは、組織づくりのヒント
大城五月 氏
株式会社hareruya 代表取締役
沖縄市でケアマネジメントを本業とする大城氏は、制度サービスだけでは解決できない困りごとに向き合うなかで、「働きながら介護をする家族」の存在に気づきます。2022年に沖縄県初の産業ケアマネを取得、2023年には全国初となる「産業ケアマネージャーによる沖縄仕事と介護両立サポート協同組合」を設立。当日は自社事例ではなく、産業ケアマネとして関わってきた企業の事例を報告しました。
介護に直面するのは主に40〜50代。キャリアを積んだ世代が、相談できずに離職する人は全国で年間10万人前後にのぼると言われます。社員は誰に相談していいか分からず、管理職はどう導けばいいか分からず、経営者は何をどうすればいいか分からない。見えにくいから後回しにされがちな悩みに対し、大城氏は外部から組織に伴走する関わり方を取ります。
関わり方は4ステップ。(1)アンケートによる実態の見える化、(2)個別面談、(3)研修・育成支援、(4)組織へのフィードバック。これらを点ではなく面として循環させることで、個人の悩みを組織の成長へと変えていきます。経営者が「社員の声を聞いて改善する」と決意表明することで、従業員も安心して声を出せるようになるといいます。
当日紹介された企業事例
・ケアプランセンター美らさん(株式会社賛宝さま):求人票に「産業ケアマネ導入・仕事と介護の両立に取り組む」と記載したことが応募増加につながり、介護職員の働きやすい職場環境づくりに関する内閣総理大臣賞の推薦企業に選出。面談から「孫休暇」という新制度も生まれNHKの取材も受けました。
・株式会社トータルライフサポート研究所(カシータ様):保険外サービスの半額補助を導入。介護を理由とした離職者がいない状態が続き、職員の安心につながっています。
・有限会社有志建設様:採用が難しい建設業界で、家族連れで個別面談に訪れる従業員がいるほどコミュニケーションが活発に。
共通するのは「外部だから話せること」。しかし社内でも、丁寧に話を聞く窓口があれば対応できると大城氏は言います。大切なのは「話せる場所」と「話していいんだ」と思える環境。ある従業員が語った「自分の介護が終わったら、今度は私が助ける側になりたい」という言葉に、沖縄の「ゆいまーる(支え合い)」が社内で醸成されていく様子を見たといいます。
3名の事例に通底していたのは、「人が足りない」という言葉を一段深く掘り下げ、自社の内側に目を向ける姿勢でした。後半のトークセッションでは、支援の現場に立つ専門家3名が、この「人手不足という言葉」そのものを紐解いていきます。
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